「animate Times Presents スロウスタート リレーインタビュー」
Vol.7 シリーズ構成・井上美緒インタビュー
- まずは『スロウスタート』に参加した経緯について教えてください。
- 以前仕事でご一緒したことがある橋本監督からお誘いを受けたことがきっかけです。それでまずは原作を読んでみたところ、とても魅力的に感じたため「こちらこそお願いします」とお伝えしました。
- 原作のどこに魅力を感じたのでしょうか?
- 『スロウスタート』は日常系と呼ばれるジャンルの作品ですが、同系統のマンガよりもシリアスな要素が多いところに惹かれました。女の子同士の生々しい距離感が丁寧に描かれていて、感情表現のリアルさが印象に残りましたね。
例えば第1話には、花名が交通安全の絵馬をプレゼントされるシーンが登場します。あのプレゼントには「仲良くなるきっかけにしたい」という思いだけではなく、「こういう冗談が大丈夫な子なんだろうか」と花名のリアクションを確かめている側面もあると思うんですね。そうしたキャラクターの思惑が水面下で見え隠れしているところが、女性の作家さんが描いた作品らしくて面白いなと感じました。
- 男性からは出て来づらい意見だと思います。
- それに、篤見先生もときどき毒を入れているんですよ。志温が「花名ちゃんがめんどくさいのは、この一年で充分わかってるから」と笑顔で伝えたり、お母さんが「自己紹介のとき『拙者、浪人でござる』って言えるわよ」と持ちネタにするように勧めたり(笑)。最初に読んだときは少し驚いたのですが、キャラクターをつかんでから読み返すと、こんなことを考えて行動していたんだろうなというのが見えてきて。篤見先生がキャラクターのプロフィールを細かく作られていることもあって、「この子はこういう風に育ったから、こんな性格になっている」という積み重ねがしっかりと感じられるんです。
- 篤見先生が膨大な設定を用意していたというのは、橋本監督のお話にも出てきました。
- クラスメイトの一人ひとりにまで設定があるんですよ。登場人物たちの設定を綿密に決めているので、行動や発言にも説得力が備わっていますし、それぞれキャラクターらしさも生まれています。
- 篤見先生との打ち合わせはどのように進みましたか?
- まずこちらから、アニメがどのような展開で進むのかというイメージをお伝えするために、シリーズ構成表をお渡ししました。シリーズ構成は物語全体の流れを作ることが仕事で、原作のどのエピソードを映像化して、どの部分を膨らませるのかを決める必要があるんですね。アニメは全12話ですから、原作のすべてをそのまま詰め込むことはできません。スタッフがどんなテーマで映像化するのかを示すために、構成表を決定稿に近いレベルまで仕上げてから打ち合わせに臨みました。
- そのテーマとは何でしょうか?
- 12話を通して“少しだけ”成長する花名を描くことです。“少しだけ”というところがポイントで、まったく成長しないのはもちろんダメなのですが、人間として大きな成長を遂げてしまうのも『スロウスタート』という作品らしくないと思います。あくまで花名が一歩だけ前に進んだように感じてもらうことが重要だと思っています。
- 橋本監督からはどんな指示がありましたか?
- 構成のテンポは橋本監督の提案で少し変わりました。最初はエピソードをどんどん詰め込んでいくタイプのシナリオだったんですが、第1話は花名が高校に入学して、たまて、栄依子、冠の3人と仲良くなっていく描写を丁寧に見せたいということになって。そのため入学式を終えてから桜並木を見に行くという原作にはないオリジナルの展開を盛り込んでいます。タイトルと同じように、作品のテンポも少し「スロウ」になりましたね。
- メインキャラ4人の掛け合いも魅力的です。だんだんと仲良くなっていく様子が的確に表現されていると思いますが、どんな部分に気をつかわれましたか?
- 後半のエピソードでは4人全員ではなく、個人個人も仲良くなっている感じを出したいと思いました。栄依子と冠のコンビは最初から仲良しですし、花名とたまてもいいコンビになっていますが、それ以外の二人組の描写を増やして、一緒にいる時間をファンのみなさんにも楽しんでもらえるように意識しています。
- アニメ化にあたって難しかった点はどこでしょうか?
- 原作ではたまてが夕食のことを「夕餉(ゆうげ)」と言ったり、栄依子が「ご笑納ください」と言ったりと、難しい単語を使うことが多いんです。アニメの場合はセリフを聞いた瞬間に何をしゃべったのかわかったほうがいいので、普通は簡単な言葉に置き換えるのですが、今回は原作のままにしました。
- それはなぜでしょうか?
- 一風変わった言葉遣いも含めて『スロウスタート』だろうと考えたんです。そこを変えてしまうと篤見先生の作風から離れてしまいますし、単語をセレクトするセンスにもキャラクター性が関係している。だから例えセリフがわからなくなっても、世界観を味わってもらいたいと思いました。
- 完成した映像を観た感想を教えてください。
- ものすごく動いていてビックリしましたね。第1話の冒頭の志温は、脚本だと「その大きな胸が、抱えている箱の上に乗っかってしまっている」としか書いていないんですよ。それなのにアニメになったらボヨンボヨン揺れていて(笑)。スポーツテストで花名がソフトボールを投げる場面も「投げようとした瞬間、球がすっぽ抜け、頭頂に落ちる」としか書いていません。脚本では一行で済んでしまうようなことも、実際に動かすとなるとすごく難しいと思います。あのシーンは運動音痴な感じがすごくリアルでした。
- 脚本を書いていたときよりもイメージが膨らませてあるわけですね。
- はい。同じように第2話で走り疲れた花名が倒れる場面では、たまてがスライディングで助けに来ます。でも脚本にはそんな指定はまったくないんですよ(笑)。絵コンテ担当の方やアニメーターさんをはじめとした、スタッフのみなさんのこだわりが伝わってきました。
- 後半の見所をお願いします。
- 栄依子と榎並先生のエピソードですね。アニメは花名をメインに描く必要があったので、原作に比べると二人の関係性に焦点を当てられなかったんです。他の話数で尺をとれなかった分、その回にはかなり濃縮して詰まっているので、二人のファンも楽しんでいただけると思います。特に会話の生っぽさに注目してほしいですね。モーニングコーヒーを入れている朝のような、けだるい雰囲気を目指しました(笑)。
インタビューの続きは、アニメイトタイムズにて!